うつの原因を脳の慢性炎症とする説を紹介する本です。モノアミン仮説(セロトニン不足)に偏りがちな日本のうつ病治療のアンチテーゼの意味もこめられているとのこと。この点を紹介している前半部分は興味深く読むことができました。(その他の内容としてはオリーブオイルなどを利用したω-3不飽和脂肪酸やω-9不飽和脂肪酸を摂る食事が紹介されていたり、他の生活改善はビタミンB6や葉酸などの栄養療法、あとはウォーキングなどの行動療法や認知療法などでした。)
確かに昨今はうつ病の社会的認知こそ広がっていますが、単純化された脳内のセロトニン不足説で薬さえ飲めば必ず良くなるという誤ったメッセージがかえってうつ病で苦しむ患者を苦しめている面は否定できません。書店などでも「9割が必ず治る!」や「95%は完治!」などのおどろおどろしいタイトルの本が平積みされていて、しかもそういうタイトルの方が病気に苦しむ人々には希望を持たせてくれるので売れるのだと思います。
しかし実際は本書で紹介されているとおり「薬だけで治ったと言えるのは3割程度」というのが現実なのでしょう。実際にNHKなどのテレビで大々的に放送される「うつは治る病気」というキャンペーンと現実には多くの人が治らずに治療が続いているギャップの差が大きいことは少しでも調べたことがある人はわかるはずなのです。もちろん人間である以上、死なない人はいないわけで、「うつは必ず治る」というのは「ガンは必ず治る」と同じくらい残念な表現なのだと感じます。正確には末期ガンでも治った人はいるけれど、治らなかった人もいるというのが現実で、「必ず」と言う言葉がつくと何か怪しい信仰めいたものにしかなりません。ただそのウソに近い言葉がパニックや自殺を防ぎ、治療を受ければより良い結果になったかもしれない人を社会につなぎとめることができる効果があるのも事実です。が、そうした一点を免罪符にして、社会、家族、医師、専門家たちがよってたかって患者を苦しめているのはどうなのでしょうか?と本書を読んでいると感じました。この点は末期ガンの患者に対する医療のあり方と少し共通しているような気がしました。もちろん末期ガンと比べればうつ病はそこまで致命的ではないと思うのですが、病気で苦しむ当人たちには病気を客観視することは難しく、そうした言葉を直接に向けることは実際の治療の場ではよくよく考えなければならない難しさはあると思います。
そういう意味でうつ病への考え方を相対化する意味では良い本だと感じました。ただ残念なのは現実的な治療法としてどうすればいいのかという点は弱く、実際にうつ病で苦しむ人がこの本を読んで治癒していくかと言えば難しいとも思います。もっともそれは決して言い過ぎないようにしている専門家としての誠意ある態度の結果ではあるのだと感じます。むしろ個人的には自信満々に「必ず治せる!」という態度の医師や専門家のほうが危ういと感じます。
やはりまだ精神や精神に近い身体の領域は未開分野なのだと感じさせます。